富田俊明

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ハート マウンテン 第3番目のストーリー
ソーレン・ビョルンによる絵、MP3プレーヤー、ヘッドセット、テクスト。 SPICA artでの個展、2009年



この絵は、ソーレン・ビョルンによって、2002年に描かれたものである。
2002年デンマークはエーア島の芸術高校において、ある晩ぼくは長い長いストーリーを語ったのだが、これを聴いたビョルンはインスピレーションを得て、アトリエにひとり戻って、その晩のうちにこの絵を描き上げた。そのストーリーとは、幼いころからよく知る山の修験道に参入したぼく自身の、2000年の夏の体験の話である。
そして今度はこのビョルンの絵が、ハート マウンテンへのぼくの新しい巡礼のきっかけになった。


この個展では、ビョルンの絵が一枚だけ壁に掛けられていて、これを観ながら、彼とぼくがこの絵を巡って交わす対話を、聴くことができるようになっている。
対話は、この絵が生まれた経緯と、この壁にこうして飾られるまでの道程についてのものである。


対話は、2008年にぼくがコペンハーゲンのビョルンのアトリエを訪れた時に収録された。
描かれてから6年。描いたビョルン自身も、絵のディテールがなぜそのように描かれたのかを詳しく思い出すことができなかったが、改めて絵を観てみて思うことを語ってくれた。彼はそれを、まるで第3番目のストーリーのようだと言う。
彼によれば、ぼくが2002年にした山の巡礼の話が第1番目のストーリー、そしてこれにインスピレーションを得てスポンティニアスに描かれた絵自体が第2番目のストーリーで、6年前の自分とは違う現在の自分が語るのは、第3番目のストーリーになると言う。

この個展では、対話は、ぼく自身による第4番目のストーリーが続くことが仄めかされるところでわざと切ってある。


描かれて以来8年間、この絵は少しも変わらなかった。しかし、ビョルンもぼくも、8年の間にそれぞれにいろいろなことがあった。このようにして、ストーリーは語り継がれ、忘れられ、また新たなストーリーが生み出され、語り直される。絵というものは、このようにして、ある親密な関係性の中に生じ、まだ見出されていない新しい、大きな意味が見出されるための時間と空間をこの関係性に許すものなのである。


関連ブログ HEART MOUNTAIN
http://heartmt.exblog.jp/