富田俊明
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泉の話
著者: 富田俊明
2001年9月/四六判(186×128mm)/並製 120ページ/CCGA現代グラフィックアートセンター、福島、2001年


かたりの なかに よびだし
ふたたび あふれ させよう

「富田さんのなかに沙漠みたいなものがあって、
そのなかにひとつある泉みたいなものがあって、
その泉を思い浮かべるとすごいその水が青いのね、、、」

沙漠の泉のヴィジョンをきっかけに、
その泉を探し訊ねる旅のお話。
第一部は、この作品の動機となった
砂漠の泉のヴィジョンについての友人との会話。
第二部は、もともとが沼地で雨が降ると洪水になりやすかった
相模原の家周辺の土地をめぐる記憶や地名の由来について、
家族や近隣の人びとに行なったインタヴューの記録。
第三部では、こうした水と水のイメージに結ばれていく過程とフィールドワークをとおして、
自ずから浮かび上がる自己という存在の核心が語りだされる・・・・・。

『泉の話』というこの書籍は、著者である富田俊明が《横浜トリエンナーレ2001》(2001年9月2日〜11月11日)に参加するに際して、展覧会で発表する作品とともに出版される本である。ただし、この本は、同タイトルの作品のカタログとして制作されたものでは必ずしもない。
解説にもあるように、《沙漠の泉》のヴィジョンをきっかけとして、先に一冊の本をつくる作業が進められた。第二部「泉をたずねて」の聞き書きを行なった神奈川県相模原市大野台周辺は、著者が生まれ育った地域であるが、大学への進学後は、時おり帰る場所になった。しばらく離れている間にも生じた変化が目につく一方で、子どものころに遊んだり、昆虫採集やスケッチに行った近くの雑木林や灌漑用水路の跡は、緑地や遊歩道になってきのうの風景をとどめている。
本の出版と展覧会の準備のために、留学中のアメリカから日本に戻って、家の周辺を散策する道すがら小学校のそばを通りかかったときに、二十年ほど前に通ったのと同じこの場所で現在を生きる子どもたちと共同で、作品が作れないだろうか・・・・という気持ちが生まれた。
地域の人々や両親が語る記憶の物語が、過去から未来へとつながる共同の声であるならば、きのうの自分と同じ場所で今日を生きる子どもたちは、過去と明日の自分の分身でもありえる。子どもたちに土地の記憶とヴィジョンを伝え、皆で身近な風景や心象を描く体験をとおして、過ぎ去り変わっていくばかりではない世界をつなぐ環があることを確かめられるなら―。
相模原市立大野台小学校に協力をお願いすると、すぐに先生方の御理解を得ることができた。折からの教育改革に合わせて、地域学習や社会との交流に取り組む新しい授業プログラムの準備が進められている時期でもあった。夏休み前の時間を利用して、三年生の生徒たちと語り、一緒に制作する機会を持てた。

このようにして、『泉の話』(横浜トリエンナーレ2001)は、かたちを表していった。展示スペースには、この作品を生みだすきっかけになった澤登恭子さんによる《沙漠の泉》の絵、富田俊明が子どもたちに土地の地誌や伝説をつたえるために描いた絵、そして大野台小学校の生徒たちが『泉の話』を聞いた後に、それぞれがいつも通ったり遊んだりしている地域のなかで好きな場所を選んで、そこで感じていることを自由に描いた絵が展示される。同時に会場の内には、本書の第二部「泉をたずねて」の聞き書きをあつめた際に録ったインタヴューの一部が再生される。
記憶の通路のようにほそく長いそのスペースを訪れる人は、何層もの時と記憶を伝える声や、時の層をこえて生きるヴィジョンが交錯する場所に佇み、歩むうちに、人が生きる器としてのひとつの土地と、物語という泉の奥へと誘われていく。

『泉の話』
目次:
泉の話
泉をたずねて
泉のほとり
著者: 富田俊明
解説: 宙水を訊ね往くひとありて 鷹見明彦
附記: 横浜トリエンナーレ2001『泉の話』のこと 富田俊明・述/鷹見明彦・記
絵: 澤登恭子
発行:CCGA現代グラフィックアートセンター / 発売:トランスアート
2001年9月/四六判(186×128mm)/並製
120ページ ISBN4-88752-150-2
税込価格:¥1,575(本体価格:¥1,500)
★本書は、トランスアート・オンラインショップのみの販売で、書店では販売しておりません。

http://www.dnp.co.jp/museum/nmp/artscape/recom/0110/fukushima/kido.html