富田俊明

プロジェクト

ストーリー・テリング・イヴニング
オーサ・ソーニャスドッターとのコラボレーション。エーア島の芸術高校での同名のワークショップをもとにした作品。CDプレイヤー、ヘッドセット、テーブル、茶、クッション他。
Blind Date:日本とデンマークのアーティストによる対話」、オデンセ市立美術館、オデンセ、デンマーク、2002年


「ブラインド・デート」展とは、日本とデンマークのアーティストたちの交流のプロジェクトである。男女のカップリングのゲームであるブラインド・デートの形式に則り、日本tおデンマークから選ばれた5組のアーティストの「カップル」により、一年間互いの情報を一切持たない状態で、メールを用いてコミュニケーションを行い、最後に5組の「カップル」による共同制作を展示した。私のパートナーはスウェーデン出身で当時コペンハーゲンをベースに活動していたフェミニスト/アーティストのオーサ・ソーニャスドッター。

「<ブラインド・デート>に向けてのやり取りが始まり、文字だけのコミュニケーションはアンバランスだと感じました。<ブラインド・デート>のルールでは禁止されていたけど、対話が密になってきた時点で、ひそかに電話でのやり取りもしました。コミュニケーションは常に多次元で進行するもので、表面的なプロセスよりも、無意識的で何気なくて気づきにくい影のプロセスの方が、しばしば大きな意味を持ちます。」(富田俊明)
「私たちは仕事のリズムをすぐにつかむことができ、長い手紙を交換しましたが、返事を書くまでに2,3週間があっという間に過ぎてしまいました。しかし毎日短いメッセージを送るよりも、このやり方が良いと感じていました。私たちは二人とも、物事について考え省みるために対話を用いてきたように思います。そして私たちの制作と方法には多くの共通点があるとわかりました。たとえば、最大の関心事が人々にあること。そして自身の置かれている状況に関して、アートを直接用いることへの関心ですね。」(オーサ・ソーニャスドッター)

一年間にわたるオーサとのコミュニケーションはこのようにゆったりと進んで行ったが、いよいよデンマークでの展覧会が近づいてきた。

「滞在期間は展示のためではなく、その日そのイベントはそれ自体のためにあるものとして過ごし、結果として作品が残ればいい、などとオーサと話していました。」(富田俊明)
「俊明が展覧会は重要じゃない、重要なのは出会いだと書いてきた時、彼が何か重要なことを言っていると感じました。私たちは展覧会があるってことを忘れなければならなかったし、うまくやる必要もなかった。出会いの可能性を信じることの方が重要でした。ブラインド・デートというコンセプトがあるならば、私たちは空っぽな部屋を示してピルエット(つま先旋回)する以外に何もないといえば、もっと正直だったと思います。」(オーサ・ソーニャスドッター)

こんな風に、結果のためのプロセスを拒否して、その時をその時自身のために過ごすことにした。ぼくたちは、オーサが当時教えていた芸術高校でいくつものエクササイズ/ワークショップを試みた。

「彼女とは、会話をせずに共に時間を過ごす「サイレント・ゲーム」(オーサの作品)から始め、その後、彼女が教えているアート・スクールの学生たちと「ストーリー・テリング・イヴニング」(物語を語る会)や幾つかのワークショップを行いました。黙って座ってじっと聴くこと、聴き手を信頼して語ること……物語は語り手と聴き手の双方を容れる独特な世界をつくりだします。そこではある種の交流が起こっていたのですが、それを何と名指すことは難しい。とてもパワフルな経験でした。」(富田俊明)
「当時私はある高校で仕事をしていました。そこで生徒と一緒に物語に関わる授業をし、物語や存在というテーマを巡って何か遊びをするということはごく自然な流れである様に思えました。そして私たちはワークショップを行って、様々な物語のエクササイズを試みました。だから、その展覧会での作品は、学生たちが話した物語の結果ですね。具体的な規則は設けなかったけど、学生たちが話をしやすいよう予備的な練習を3つやりました。たとえば俊明は自分自身について述べなければならないゲームを行いましたが、嘘をつかなければならないという仕掛けがあったんです。グループの参加者たちはそれ以前に互いを知らなかったから、自身を表現し、また偽るという行為で、いろんな物事に対してオープンになってきました。」(オーサ・ソーニャスドッター)

最後まで、対話のプロセス自体を目的としたため、展示はこの生きた体験のドキュメントという性格を持つことになった。具体的には、芸術高校でのストーリーテリングを録音したCDを観客が聴けるようにセットするとともに、会場にも、ぼくたちが体験したようなストーリーテリングができる場所を作った。

<プラインド・デート>展では、輪になって座り、話を聞くことができました。私たちはインスピレーションをかきたてるような部屋を作り、展示物を使って、その美術館に関連して、子どもたちのためのワークショップを行いました。そして展示の一部として私たちが作ったのと同じやり方で、本を作ることができたんです。・・・・・・ある意味、オデンセ美術館以外の文脈でそれを行うことができれば、さらに良かったでしょうね。たとえば、人が毎日やってくる街中でワークショップをするとか。観客は空間に入ってくるとはじめに作品をインスタレーションとして、つまり美術的経験として体験するけど、それは私たちの狙いじゃなかったから。(オーサ・ソーニャスドッター)

・・・・・・<ブラインド・デート>は、相手の選択はできず、共有する知識もなく、何を作るかも決まっていない。オーサとの対話プロセス自体を目的としたため、展示作品を制作する際には少なからず葛藤がありました。展示のために用意していた2人のアイディアは意味を失って壊れていき、展示空間の壁面まで撤去して、とうとう疲れ切った2人が座っている作業机だけが残りました。その時、常に変化している対話の場=机がもっともリアルに感じられ、そこから見ると、それまで作ってきた全てが虚構に見えたのが面白かった。(富田俊明)
・・・・・・私たちの展示では、作品はインタラクティブです。子どもたちに一番人気があったのは、私たちがつくった、晴れ舞台みたいに壁に赤いスポットライトを照らしたステージでした。他の子たちはクッションに座ることができました。それはとてもうまくいきました。子どもたちは喜んでスポットライトにあたり、一緒に歌ってた。状況を理解し、自分の経験とストーリーを提示しうる可能性がそこにはありました。だけど、私たちが全てを適切に行うためには、もっと多くの時間が必要だったでしょうね。(オーサ・ソーニャスドッター)

「ブラインド・デート」のプロジェクトは、互いに見知らぬ、出会う可能性の少ない他者同士の出会いの可能性についての実験だった。
『ストーリー・テリング・イヴニング」は、ぼくたちの人間主義的なアプローチからも、もう来ているグローバル社会の中で、コミュニケーションのポジティヴな体験を実際に示したかった、ぼくたちからのメッセージである。

一部「パスワード:日本とデンマークのアーティストによる対話」カタログより抜粋

展示風景
ワークショップ